着床前診断で正常受精卵(胚)なのに妊娠しない理由   

私達の代理出産の臨床現場から

21年間、生殖医療のコンサルテーションを提供してきて「着床前診断で正常であるのになぜ妊娠しないのか」という質問を受けることがある。妊娠検査が陰性であった場合、受精卵が染色体異常であった可能性をドクターから受けることがある。では、着床前診断で正常な受精卵を移植しているのに妊娠しない場合はなぜか?毎月、実例を見ている代理出産の臨床現場から、この背景について解説する。

<2026年春出産ケース、正常受精卵移植6回目で妊娠達成>

<正常受精卵(正常胚)移植連続5回不発>

着床前診断によって“正常”と判定された受精卵の移植を繰り返し、ついに6回目の移植で代理母が妊娠を達成できたケースが今月、出産を迎える。このケースは、2024年に開始し、正常な胚盤胞が計9個、(男児5個、女児4個)であった。当クライアントは男児を優先した移植を希望し、双子を避けるために、単一(一つずつ)受精卵(胚)移植で、5回の移植を繰り返した。2回の妊娠を確認したが、いずれも化学的妊娠・化学流産で妊娠反応が出た後、成長が止まり、心音が確認されず、3回は陰性を繰り返した。その後、6回目に初めての女児の受精卵を一つ移植して妊娠達成に至った。

<代理出産運営側の利益のための移植繰り返しではないかという疑問への説明>

何回も移植を繰り返すことで依頼者に課金し、運営側が利益を試みているのではないかという疑問がインターネット上で語られることがあるが、当グループのプログラムはそのような構造にはなっていない。妊娠保証型プログラムが中心であるためである。当ケースも同様に妊娠保証プログラムによる契約になっていた。妊娠保証型プログラムでは、移植回数が増えるほど運営側の負担が増える。実際、本ケースでは健康で妊娠歴のある20代の代理母を3回変更し、万全の体制で移植を行ってきた。

<着床前診断で正倍数性の正常な受精卵でも化学流産となったのはなぜ?>

当ケースは、2回の化学的妊娠、化学流産を経験したが、一般的に化学流産の多くも、染色体異常が原因である可能性がある、と考えられている。しかし、本ケースでは、着床前診断により正倍数性であることが確認された受精卵の移植である。また、別のレポート(低グレード受精卵による妊娠)でも説明したように、着床前診断を行った受精卵をグレードが良い順に移植していっても妊娠に至らず、最後に、最もグレードの低い受精卵が妊娠するケースもある。つまり、染色体が正常であり、かつグレードが高い受精卵であっても、必ずしも妊娠に至るとは限らないのである。

<PGT-A正常受精卵(胚)の妊娠率は100%ではない>

着床前診断PGT-Aによって受精卵が「正常」と判定されると、患者は、「完璧な受精卵である」という印象を持ちやすい。実際は、PGT-Aは23対の染色体の数的異常を評価する検査で、妊娠の成立には、それ以外の要素も関与する。

そのため、PGT-Aで正常と判定された受精卵(胚)であっても、妊娠率・出生率は100%を示すものではない。複数の臨床研究では、単一(ひとつ)の正倍数性の受精卵(胚)を移植した場合の成功率は以下の範囲と発表されている。

・妊娠(着床)率:約50〜60%
・出生率:約50〜60%

これらは、米国の大規模なデータ(SART)や臨床研究(RMA)において一貫して示されている傾向である。

このデータは、正常受精卵(胚)移植を行っても約半数は1回では妊娠に至らない、ということを示している。

<PGT-A正常受精卵(胚)でも妊娠しない背景>

理由1:PGT-Aは受精卵(胚)の発生能力そのものを評価する検査ではない

多くの患者は受精卵に対するPGT-Aによる着床前診断で、すべての異常が分かると考える。しかし、PGT-Aは、受精卵の23対の染色体の「数的異常」を評価する検査であり、受精卵(胚)の発生能力を評価するものではない。発生能力とは、受精卵(胚)が本来持ち備えている、正常に発育し、妊娠に至る力*を指す。つまり胎児と成長していくための内在的な力*である。

*この「力」とは、細胞が活動するためのエネルギーを生み出す働き(主に細胞内のミトコンドリア機能)などに関係している。

理由2:検査は受精卵(胚)の一部のみを評価している

生体検査では、将来胎盤になる外側の細胞(栄養外胚葉)を5~7個採取して検査する。この栄養外胚葉は将来胎盤を形成する部分で、赤ちゃんになる内細胞塊を囲んでいる。赤ちゃんになる内細胞塊は直接検査していないため、検査結果が受精卵(胚)全体を完全に反映しているとは限らず、赤ちゃんになる内細胞塊と、検査している栄養外胚葉で、染色体の状態に相違がある場合がある。つまり、外側細胞は正常でも内側細胞は正常ではない可能性があり得る。

理由3:受け入れる子宮との相互作用

着床は、受精卵(胚)の力のみで決定されるものではなく、受け入れる子宮内膜との相互関係が関与する。子宮内膜の厚みの状態、移植のためのホルモン投与による準備、タイミングなどの要因が関わる。

理由4:受精卵(胚)の形態的な質(グレード)

PGT-Aで染色体が正常と判定された受精卵であっても、形態的な質(グレード)が着床に影響する。特に、将来胎盤を形成する「栄養外胚葉」の質は、着床、妊娠の成立に関連することが報告されている。

つまり、染色体が正常でも、胚の構造的な質によって結果が異なる可能性がある。

<男性側の遺伝子(精子)要因の影響>

本ケースでは、5つの“男児”の正常受精卵(胚)を5回移植し陰性、その後、6回目の移植で初めて“女児” の正常受精卵(胚)を移植し、妊娠を達成した。この結果が偶然かどうかは断定できないが、精子由来の要因が影響している可能性も完全には否定できない。

<多くの要因が統合されての着床、妊娠という神秘>

PGT-Aは非常に有用な検査だが、受精卵(胚)の運命を完全に決定するものではない。受精卵の質、子宮環境、タイミングなどの臨床上のマネージメントなど複数の要素が統合され、初めて着床、妊娠に結びつく。

関連する解説:

・着床前診断(PGT-A)の詳細はこちら                                               
低グレード胚で妊娠が成立する背景について

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