私達の代理出産の臨床現場から
最近、社会体系が変わってきており、必ずしも婚姻下になくてもお子さんを授かりたい、という独身女性、及び、独身男性からの弊社への依頼が増えています。 家族形成計画の年齢が男女ともに上がっていることもあり、比較的高齢の男性から、精子の質の懸念があるケースも多くお手伝いしています。日々、実例を見ている代理出産の臨床現場から、この背景について解説していきます。
<重度男性不妊への選択肢:TESE(精巣内精子採取術)>
受精卵形成に至らなかった状況から2つの正常胚盤胞獲得へ
<最近の男性不妊ケースの増加>
無精子症ではないが、限りなくその状況に近く、精子採取を行っても精子がみつからない、動いていない、と言われた、という患者様が弊社にいらっしゃるケースがこの数年、増えている。特に、男性側加齢に伴い精子所見が悪化しているケースが近年目立つ。
<2つの代理出産エージェントを経て相談に至った男性不妊のケース>
代理出産のために、先月2026年4月、TESE(精巣内精子採取術)を使用して体外受精を行った当社のクライアントは60代後半の男性である。彼は、すでに2つの代理出産エージェントと契約を行ったが、代理出産プロセスが進行しないまま当社に相談にいらした。多額の初期費用(概算、計1000万円ほど使用)を支払ってプロセスを開始したものの、精子の問題から受精卵がひとつもできず、その結果、代理母への受精卵移植も行われなかったという。この2回の代理出産プロセスが、契約のみが進行し、受精卵形成段階にすら到達しなかった背景は、代理出産契約前、つまり、支払いが発生する前に、依頼者の生殖能力検査を正確に把握していない点にある。依頼者は、それらの代理出産エージェントによる事前説明の不足、事前審査の不足、及び、それらに伴う責任体制の不明確さを訴え、十分な説明がないまま契約が進行したと感じた、と語っている。
<正確な精子分析不足が招く代理出産プロセス不成立>
自己卵子を使用する女性依頼者の場合も同様であるが、代理出産プログラムに入る前に、男性依頼者の正確な生殖能力の検査は必須である。それは、代理母に移植する受精卵は男性因子と女性因子の双方によって形成されるためである。
正確な生殖能力検査結果が基礎となり、高額な代理出産プロセスの実現可能性と成功率を左右する。依頼者は、契約前に、受精卵形成や妊娠成立の現実的可能性について、医学的説明を受けたうえで判断する機会を与えられるべきである。特に、自己卵子・自己精子による治療を望む場合(すでに受精卵や精子などの標本が存在し、当標本を代理出産に使用する場合は、標本作成時のデータやレポートが必要)、この正確な診断なしに契約を行うことは、依頼者にとって経済的・時間的・精神的負担となり得る。
<正確な男性不妊のための検査が行われることが正しい治療方針につながる>
また、代理出産が行われるクリニックへ提出するための依頼者自国による精子分析は正確である必要がある。検査によっては世界標準が使用されていない場合があり、代理出産が行われる世界のクリニックでは受け入れられない*。当検査結果を十分に確認しないまま、もしくは、WHO基準に準拠していない精液検査レポートを未提出にもかかわらず契約を進めるプログラムは、当ケースに見られるように、結果的に代理出産プロセスの不成立や不要な経済的負担につながる可能性がある。逆に、正確な診断が行われている場合は、治療方針が立てやすく、適切な治療選択につながる。TESE(精巣内精子採取術)もその選択肢の一つとなり得る。
*世界基準が使用されている男性クリニックについてはお問い合わせください。
<TESE(精巣内精子採取術)とは>
今回のケースでは、依頼者の精子の状態が良くなく、 精子数減少(乏精子症) 、 運動率低下(精子無力症)、 奇形率上昇(奇形精子症) の診断と、我々との治療開始以前の治療で受精卵が全くできなかった、という事実から、当プログラムの男性科専門医、及び、培養士と相談し、重度男性不妊や無精子症に対するTESE(精巣内精子採取術)を行うことを決定した。
TESE(精巣内精子採取術)とは、麻酔下で睾丸(精巣)から直接精子を採取する手術である。我々は過去15年にわたり、平均して年に1例程度、TESEを必要とするケースを扱っている。
<TESE(精巣内精子採取術)による症例と成功率:72歳でも父親に>
過去15年間で決して数多いデータ数とは言えないが、我々のTESE(精巣内精子採取術)の症例から明確な傾向が見られる。若くしてTESE(精巣内精子採取術)が必要なケース、特に、遺伝的な理由で精子がもともとないケースにおいてTESE(精巣内精子採取術)でわずかに採取できたとしても妊娠に結びついたケースはなかった。逆に、加齢が原因で、自己採取が不可能である場合、言い換えると、若いころは自己採取が可能であったが状況が変化したためにTESE(精巣内精子採取術)を必要とする場合には、TESE(精巣内精子採取術)にて採取できた精子により受精卵ができ、良好な結果につながる傾向がみられる。我々の経験においては、最高年齢で72歳の男性がTESE(精巣内精子採取術)からの精子で代理出産を通じ、双子を授かったケースもある。
<TESE(精巣内精子採取術)による2026年4月体外受精サイクルケース>
2026年4月の体外受精サイクルは、8個の卵子に対し、TESE(精巣内精子採取術)から採取された精子と同日に授精を行ったところ、1日目に半数の4つが受精卵となり、結果的に5日目に2つの胚盤胞に到達した。当グループでの治療を開始する以前に、別のプログラムの体外受精では、授精後も受精卵形成に至らなかった結果と比較すると大きな進展と言える。この2つの受精卵のグレードは5AAと5ABという非常に優秀な内容であった。また、この2つの受精卵に対し着床前診断を行った結果、2つとも正倍数性胚であり、いずれも女児胚であった。
<TESE(精巣内精子採取術)の利点と課題>
今回の治療ケースではTESE(精巣内精子採取術)使用で良い結果を得ることができたが、TESE(精巣内精子採取術)の利点と弱点が研究発表されている。
利点について
1.<無精子症という診断でも子を持つことの可能性>
精液検査で無精子症と診断されても、精巣内に精子が存在している場合がある。以前は、無精子症と判断された場合は、「子供を持つことは難しい」と考えられていたが、TESE(精巣内精子採取術)とICSI(顕微授精)による両方の技術の発展により展望が変わってきている。精巣から採取される精子の数が非常に少なく運動性も弱いことが多いため、通常の体外受精では受精が難しかったが、最適とされる精子を選び、卵子へ直接注入するという技術であるICSI(顕微授精)によって生殖医療の展開を大きく進歩させた。
ICSI(顕微授精)が世に出てきたのが1992年で、その後、TESE(精巣内精子採取術)とICSI(顕微授精)によっての初めての成功例が出てきたのが1993年から1995年頃と言われている。以下の米国国立衛生研究所(米保健福祉省の世界最大級の医学研究機関)の2021年の文献によると、無精子症の男性患者からの精子採取の成否は、執刀医の経験や患者の状況、クリニックのラボのチームワークによるとある。
米国国立衛生研究所発行の2021年の文献(英語):顕微鏡下精巣内精子採取術の導入から20年:この外科的手法はいかにしてNOAの治療管理を向上させたか
2.<自己採取した精液中よりDNA損傷が少ない可能性がある>
自己採取の精子より精巣内精子のほうがDNA損傷率が低い可能性について報告されている。DNA損傷率は、受精や胚発育に影響する可能性が指摘されている。近年、一部の男性加齢 、精索静脈瘤 、重度精液所見異常 などの重度男性不妊症例では、射出精子より精巣内精子のほうがDNA損傷率が低い可能性が報告され、TESE(精巣内精子採取術)が注目される理由の一つとなっている。これは、精子が精巣で形成された後、体外へ排出される過程で酸化ストレスなどの影響を受ける可能性があるためだ。
課題について
TESE(精巣内精子採取術)の課題は、TESE(精巣内精子採取術)を行っても、精子が見つからない場合がある点である。特に非閉塞性無精子症の場合は、精子形成部位を顕微鏡で探せるmicro-TESE(顕微鏡下精巣内精子採取術)使用であっても回収率は40〜60%前後にとどまる。
<現在の生殖医療では男性不妊をどう捉えているか>
現在の生殖医療では、男性不妊は単なる「精子数」の問題ではないとされ、精子DNAの損傷、染色体の正常性、男性側加齢など、より本質的な精子の質そのものが焦点となっている。
TESE(精巣内精子採取術)は、精子を採取するための重要な技術であり、根本的に精子の質を改善する治療ではない。しかし、従来は精子が採取できず、「不可能」と考えられていた無精子症や重度男性不妊に対しICSI(顕微授精)と組み合わせることで、以前は「不可能」と考えられていた状況に対し、治療のスタートラインを作り、新たな可能性を切り開いたことは間違いない。
<本ケースが示す男性不妊の正確な診断の重要性>
今回のケースは、まず、代理出産契約前に、適切な生殖能力評価、リスク確認、法的・医療的審査を行う運営体制がいかに重要であるかを示す症例であった。
TESE(精巣内精子採取術)はすべての男性不妊に対して万能な治療ではない。しかし、従来は「不可能」と考えられていた重度男性不妊や無精子症に対し、新たな可能性を切り開いた技術の一つであることを示した。
代理出産は、単なる依頼ではなく、医療・法務・胚培養・国際手続きを含めた総合的プロジェクトであり、信頼できるチーム体制のもと慎重に進めることが、赤ちゃんを授かるための第一歩である。
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