今年4人目の代理母妊娠速報と「低グレード受精卵による妊娠」の謎

私達の代理出産の臨床現場から

胚盤胞のグレードは、妊娠率を予測する重要な指標とされている。しかし臨床では、高グレードの受精卵で妊娠が成立せず、より低いグレードの受精卵で妊娠が成立するという現象が時に見られる。代理出産の臨床現場から、この一見矛盾する現象の背景について解説する。

<高グレード受精卵で陰性後、低グレードで妊娠する背景>

<今年4人めの代理母の妊娠達成>

2月末、2026年に入って4人目の代理母の代理出産のための妊娠が確立した。当ケースは妊娠保証プログラムで、11月に依頼者が選択した卵子ドナーとの受精卵による2回目の移植による妊娠達成である。

<一回目の非常に良いグレード2つの正常胚盤胞による移植では陰性>

2回目の移植、というのは、2025年12月に着床前診断から正常とされた最も良いグレードの受精卵2つの胚盤胞を代理母に移植したが陰性であったためである。その後、2月に再度、同代理母に移植を行い、今回の強い妊娠反応陽性の喜ばしいニュースとなった。順調に行けば、9月の出産となる。

<高いグレードでの陰性、低いグレードの陽性の不思議>

2025年11月の採卵で17個の卵子を確保、8個の胚盤胞が出来、8個の胚盤胞に対して着床前診断(PGT-A)を行い、6個が正常であった。この正常な6個の胚盤胞ステージの受精卵のうち、12月の最初の移植ではベストで正常な受精卵で、グレードはトップグレードとされる6AAの男の子と女の子の受精卵の計2つの受精卵を移植したが陰性。2回目は1回目の受精卵のグレードよりかなりグレードが落ちる6BBと6BCの計2個の男の子と女の子の受精卵を移植し、妊娠。20年に近く生殖医療のコンサルテーションを行い多くのケースを見てきて、このように、良いグレードの受精卵から移植していき、妊娠達成ならず、グレードが低い受精卵を移植して妊娠を達成する、または、最後に残った最もグレードの低い一つの受精卵が赤ちゃんに結びつくケースは少なくない。

グレードが良いものが妊娠に結びつかず、低い受精卵によって妊娠を達成し出生することが多々ある、この矛盾はなぜであろうか?

<胚盤胞のグレードをどう読むか>

近年、多くの米国のトップのクリニックでは現在、胚盤胞になる受精卵のみを移植している。したがって、グレードも胚盤胞用の評価となっている。胚盤胞のグレードは3つの文字で構成されている。

最初の数字が胚盤胞の拡張・成長度を示す。2つ目のアルファベットが受精卵の中身である、内細胞塊(ICM)のグレードで赤ちゃんになる部分、3つ目のアルファベットが栄養外胚葉(TE)で将来胎盤になる部分ののグレードである。最初の数字は1(初期胚盤胞)から6(孵化後)、2つ目と3つ目のアルファベットはA・B・Cで表示され、Aは細胞数が多く密な状態、Bは中等度、Cは細胞数が少ない状態を示す。

胚盤胞のグレードの読み方

最初の数字:胚盤胞の拡張・成長度
1 初期胚盤胞
2 胚盤胞           
3 完全胚盤胞      
4 拡張胚盤胞      
5 孵化開始胚盤胞(部分的孵化)
6 完全孵化胚盤胞      

2つ目のアルファベット:内細胞塊(ICM)赤ちゃんになる部分
A 細胞数が多く密
B 普通
C 劣る

3つ目のアルファベットが栄養外胚葉(TE)で将来胎盤になる部分
A 細胞多く整っている状態
B 普通
C 劣る

トップグレードの受精卵とは通常、トップグループで6AA,5AA, 4AAを指す。次のクラスで優秀とされるグループは6AB, 6BA、5AB, 5BA, 4AB,4BAである。次の優良とされるグループは、3AA,3AB,3BA、次の普通とされるグループは6BB, 5BB、4BBである。

<見た目のグレードは妊娠を完全には予測できない>

この受精卵のグレードの意味は、移植に際してのプライオリティであり、高いグレードの受精卵は一般的に質が良く、妊娠の確率も高いと期待されている。しかし、20年以上にわたり生殖医療のコンサルテーションを行い、特に代理出産における移植結果を継続的に記録してきた弊社の経験では、“優れたグレードの受精卵を複数回移植しても妊娠に至らず、最後に残った比較的グレードの低いひとつの受精卵が移植され、結果として健康な赤ちゃんが誕生する”という現象に遭遇することがある。まさに今回の今年4人目の代理母による低グレード受精卵による妊娠のパラドックス(謎)である。

<代理出産プログラム側の利益のための擬装工作説の疑いへの説明>

こうした現象に対して、“移植回数を増やすことでプログラム側が利益を得ているのではないか”と推測する向きもある、と聞いているが、弊社のプログラムにおいてはそのような構造にはなっていない。弊社の代理出産依頼の多くは妊娠保証のプログラムであるからだ。妊娠成立までに時間と治療や移植がかかればかかるほど、追加の医療費や管理コストはむしろプログラム側の負担となる。つまり、移植回数が増えることは利益ではなく、むしろコスト増につながる仕組みになっている。

なぜ妊娠率が高いはずの受精卵が妊娠せず、その後、同じ環境において(代理出産の場合は、同じ代理母)プライオリティが低いとされる低グレード受精卵が妊娠することがあるのだろうか?

<「低グレードによる受精卵」で妊娠の背景>

20年の経験のなかでこの矛盾の背景と思われる可能性は以下の通りである。

1. グレードは人間による「見た目」による評価

胚盤胞のグレードは顕微鏡による形態学的評価であり、機械ではない人間である培養士が観察して判定する。主観的要素が含まれるとも指摘されており、評価差(人によって同一に受精卵に違うグレードがつく)が報告されている。(直近ではAIによる判断方法が出現してはいるが普及していない)

2、グレードは形態評価(外観)であり染色体正常や遺伝子状態の判断は入っていない。つまり外観が良くなくても染色体正常の受精卵は存在する。その逆もあり、外観が良くても内容に問題がある場合もありえる。着床前診断を併用する場合でも、PGT-Aは主に染色体数異常を調べる検査であり、受精卵の発生能力そのものを直接評価するものではない。また、単一遺伝子疾患を調べるPGT-Mは受精卵の内部で起きている遺伝子発現や発生能力を反映するものではない。つまり、形態がやや劣って見える受精卵であっても、発生能力を十分に持っている場合がある。

3、子宮との相互作用

受精卵が着床するには受精卵と子宮の相互作用であるため、受精卵の能力とともに、子宮内膜の受容性、移植タイミング、ホルモン環境や免疫などが統合的に関わる。

<グレードが低い受精卵も希望がある>

つまり、グレードは絶対的ではなく、あくまで統計的傾向を示す「妊娠率が高い傾向」を示す指標であり、個々の受精卵の着床能力を完全に予測するものではない。そのため、実際の臨床では、高グレードの受精卵で妊娠が成立しない一方、低グレードの受精卵で妊娠が確立する場合もある。

ではグレードに反して妊娠する可能性はどの程度ありえるのだろうか?

<臨床上の統計:グレードが低い受精卵による妊娠率>

2021年に報告された臨床研究である南カリフォルニア大学の生殖内分泌専門医らが448個の胚盤胞を解析した結果¹、出生率は、AA / AB / BAの受精卵からは約51%、BB / CBは約39%、BC / CCでも約25%という結果が出ている。

他の研究も概ね同様の統計となっている。

平均的な受精卵グレードによる出生率
AA40–50%
BB30–40%
BC20–30%
CC10–15%

統計的にグレードが下がるほど確率は下がるがゼロにはならず、一番劣るグレードであっても妊娠することがわかっている。この現象をさくら代理出産グローバルアドバイザーグループでは年に数件は見ている。

つまり、受精卵のグレード(形態評価)は、受精卵が持つ本来の発生能力を完全に反映するものではない。現在の生殖医療では、その発生能力を直接かつ完全に測定する方法は確立されておらず、グレード(形態評価)や染色体検査(PGT-A)は、その能力を推測するための指標として用いられている。

したがって、胚盤胞のグレードは移植の優先順位を決める臨床上の指針ではあるが、それが個々の受精卵の最終的な運命を決定するものではない。

実際の臨床で、さくら代理出産グローバルアドバイザーグループのあるクライアントは女児の誕生を望み、女の子の受精卵のみを繰り返し移植を行ったケースがある。そして、最後のひとつになったグレードBCの受精卵を代理母に移植した結果、望みは薄いのではないかという心配を覆すように妊娠が成立し、2024年末に健康な赤ちゃんが誕生した。現在、1歳の誕生日を迎え、美しく健康に成長している。このした姿を見ると、どのようなグレードがついた受精卵であっても、新しい命が誕生する可能性があることをお伝えしたい。

¹ Awadalla MS, et al.
Effect of Age and Embryo Morphology on Live Birth Rate after Blastocyst Transfer.
Fertility and Sterility Reports. 2021.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8312298/